カルテの英語 書き方それでいいの?②
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衝撃的な記載その2「歩行時tired(+)」
tiredという言葉。「疲労」と書きたかったんだろうけど、
「これ、形容詞ですよ!」
tireはタイヤ。動詞だと「疲れさせる」という意味です。タイヤのように毎日こき使われてすり減りながら消耗していくイメージですね。
サンスクリット語では「罪」という意味があったらしい。「罪」を償うために、毎日毎日労働している感じでしょうかね。
I’m tired.
なんて中学校で習うから「歩行時tired(+)」って書きたくなったんだろうけど…
「歩行時、疲れさせる、あり」…?
なんともすっきりしない記述。
重要なのは、疲れているなぁと見えた時の客観的な現象です。
tiredではなくて…
正解はtiredではなくてfatigueです。
保険・医療の分野でfatigueは、
「特定の病気ではないが、symptom(徴候)を示すもの」
と定義されています。
つまりは、I’m tired. な人の疲れが誰かに発見されて客観的な状態として認識されたものがfatigueということ。
記載としては、
fatigue(+)
にすれば間違っちゃいない。
でももっと言えば、重要なのはどんな状態でどのようなfatigueがどの程度生じたのかということ。
それが記載されていないと、ほかの人が見たときに、もう一度疲れを確認してから判断して対応しなければならず、時間だけが過ぎていきます。患者を何回も疲れさせなければいけなくなりますね。
①患者の訴えとかセラピストの感性とかで、「疲れているな」と感じる。
②感じた以上は、その元になった現象があるはずだから、それに注目する。
③現象が見つかればそれを数値化、無理ならば客観的な記述をする。
ここまでやって意味のある記述になります。
全身疲労 or 筋疲労
たぶん、全身疲労か筋疲労かどちらかを見ていたんだろうけど、どっちかによってPhysical Therapyでの治療対象は変わってきます。
筋疲労は筋収縮時の緊張力が急激に低下する状態と定義されます。動作の面からみると、繰り返し、もしくは持続的な収縮によってstrengthが低下し、必要なpowerを発揮できない状態です。
動作中にstrengthを測定することは難しい(たぶん無理)なので、歩行中であれば、歩容の乱れが客観的な指標となります。
全身疲労は、Physicalな面では筋へのエネルギーと酸素供給の問題。心肺機能の状態が指標となり得ます。
もしかして筋疲労?
仮に「歩行時tired(+)」が歩容の乱れに気付いた結果であれば、歩容の変化を分析してどの筋のstrengthが低下したのか予想をします。
あたりをつけられたら、疲労が生じたときとそうでない時のその筋の持続的な収縮力を比較。
Muscle Settingの持続時間を調べればいいでしょうかね。
筋疲労は、局所の酸素供給とエネルギー代謝の問題だから、治療もそれに即したものになる。
具体的には、毛細血管網の発達具合、Type1筋線維の強化、に注目。
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まず、筋張力は筋の横断面積に比例するといわれています。(1cm四方で3.5~4㎏くらい。文献によりいろいろ)
なので筋自体のボリュームが少なければ、一回ごとの収縮に余裕がなくなってくるので疲労しやすくなる。
1回の収縮が最大筋力の40%を超えるあたりから、筋収縮によって毛細血管が押しつぶされ金への酸素供給が途絶えるといわれます。
つまり、筋のボリュームが小さくて無理やり歩いている人は、酸化系のエネルギー代謝を使わずに解糖系のエネルギーを使っているためすぐに疲労してしまうということ。
ただ、筋線維別にみると、疲労しやすいといわれるType2線維にも、繰り返し収縮可能で比較的疲労しにくいタイプが含まれます。
歩行時の中殿筋の働きがそれと言われています。
ヒールコンタクト直前から「ピッ」と働いて、正常であれば何千回も収縮して疲労しない。だって、1000歩くらい平気で歩けるでしょ?
ピーク値は3/100秒と言われ、収縮スピードは明らかにtype2線維の仕業です。
筋線維も考えていくと、筋疲労だから繰り返しやればよくなるだろうとはなかなか言えなくなってきます。
いやいややっぱり全身疲労?
さて、もう一つ。全身疲労。
「歩行時tired(+)」
に気付いたのが、息切れや立ち止まって休憩する姿だとしたら、おそらくこっちでしょうね。
全身状態の問題であり、運動に関しては酸素負債の問題ととらえればいいかと思います。
そう、ワッサーマンの歯車です。
つまりは呼吸・循環系の問題。心機能や呼吸機能に対しての治療が必要になってきます。
心臓に酸素を供給するのは冠動脈。
この冠血流は心臓の拡張期に起こります。
心拍数が上昇すると拡張期の時間が短くなります。すると、冠血流も少なくなる。対して心筋の酸素需要は増えているので、心筋は酸欠状態。
でも、心筋は低酸素状態に強いんです。頑張って頑張って働いてくれる。でも力尽きたとき、壊死してしまうんですね。
実際はそんな単純ではないですけど
だから、同じ運動負荷でも心拍数の上昇を抑えていくにはどうしたらいいかというのが治療の方向性になる。
それには当然呼吸も関係してきます。というより、呼吸と循環は「鶏と卵」です。
だから記載はしっかりしないと
疲労の種類によって治療が大きく違ってしまうのがわかりますか?
全身疲労と筋疲労、実際はリンクしているのでクリアカットできない部分もありますが、記載をしっかりしておかないと、別の人が検査目的でまた疲労させなきゃいけなくなります。
これ、負担ですよね。患者にとって。
ということで、
「歩行時tired(+)」と書かれただけじゃ意味がない
ということでした。
・・・忙しいのもわかるんですけどね…。